活用事例2026年10月15日
複雑な給与計算を、AIで月10日から3日に。警備・設備・清掃で手当がバラバラでも、ルールを「データベース化」して事務員2名の作業を短縮
警備・設備管理・清掃をまとめて請け負う、いわゆる「総合建物管理」の会社の給与計算は、ほかの業種と比べてもとくに複雑です。仕事の種類ごとに月給・日給・時給が混ざり、現場ごとに手当のルールも違います。「この現場だけ夜勤手当が違う」「この人は資格手当がつく」といった例外が積み重なり、毎月の給与計算が事務員の大きな負担になっています。この記事では、そうした複雑な給与計算を、ルールの「データベース化」とAIで短くする方法を、モデルケースで紹介します。
- 会社
- Jビルサービス/地方都市の総合建物管理会社(警備・設備管理・清掃)
- 規模
- 従業員約150名(社員40名、パート・アルバイト110名)、現場 約50か所
- 困りごと
- 給与計算を事務員2名で毎月約10日かけて行っていた。手当のルールが現場ごとにバラバラで、担当者しか分からない例外も多かった
- 対象の業務
- 給与計算勤務表の集計手当・割増の計算支給額のチェック
- 使ったもの
- 賃金規程・現場ごとの契約メモ・過去の給与明細、Excel、AI「Claude(クロード)」の法人向けプラン、今の給与ソフト
困っていたこと
- 給与計算に2名で毎月10日
- 手当ルールが現場ごとにバラバラ
- 勤務表の形式もバラバラ
やったこと
- ルールを「手当マスタ」に整理
- 勤務データをAIで同じ形に
- 計算は表の式、チェックはAI
変わったこと
- 給与計算が2名で約3日に
- 計算の根拠がだれでも分かる
- 年約336万円分の時間が浮く
総合建物管理の給与計算が複雑になる理由
Jビルサービスでは、施設警備・交通誘導警備・設備管理・日常清掃・定期清掃と、性質の違う仕事を同じ会社で行っています。賃金の決め方も、社員は月給、交通誘導は日給、清掃パートは時給とさまざまです。
現場ごとにルールが違う同じ夜勤でも、現場の契約によって手当の額や付け方が違う
勤務表の形式がバラバラ紙の出勤簿、現場のExcel、LINEでの報告などが混在している
担当者の頭の中にしかない「この現場はこう」という例外を、ベテラン事務員だけが覚えている
たとえば、次のようなルールが社内のあちこちに散らばっていました。ひとつひとつは単純でも、150人分を毎月手作業で当てはめるのは大変です。
いちばん大事なのは「ルールのデータベース化」
AIを入れる前に、まず取り組んだのが、散らばったルールを1つの表にまとめることでした。これを「手当マスタ」と呼んでいます。賃金規程、現場ごとの契約メモ、過去の給与明細をAIに読ませ、ルールの一覧を下書きしてもらいました。
散らばったルールを、AIで1つの「手当マスタ」に
できあがった手当マスタは、たとえば次のような形です。「どの仕事・どの現場で・どんな条件のとき・いくら」を1行ずつ書き、根拠になった書類も残しておきます。
ここがポイント
ルールの整理中に、規程と実際の支給が食い違っているものや、だれも理由を説明できない手当が見つかることがあります。AIには「矛盾や根拠が見つからないものは【要確認】にする」と指示し、最終的には社長・事務担当・社会保険労務士でルールを決めました。この作業そのものが、会社のルールを統一する良いきっかけになります。
AIを使った新しい流れ(5ステップ)
ポイントは、給与の計算そのものはAIにさせないことです。AIは「ルールの整理」「バラバラな勤務データをそろえる」「おかしな数字を見つける」が得意です。一方、お金の計算は、手当マスタを参照するExcelの計算式で行い、毎回同じ結果になるようにしています。
勤務データをそろえるAIが同じ形の表に
手当マスタを参照現場・条件ごとに
表の式で計算毎回同じ結果に
AIが異常をチェック前月比・最低賃金
給与ソフトに取込いつもどおり
これまで紙やExcelの勤務表を集めて転記し、現場ごとの手当を思い出しながら計算。2名で約10日。
AI導入後勤務データはAIがそろえ、計算は表の式で自動。人はAIが指摘した箇所を確認するだけ。
AIへの頼み方の例
Jビルサービスで実際に使っている頼み方を、3つの場面に分けて紹介します。
① 手当マスタを作るとき(最初の1回)
添付の賃金規程、現場ごとの契約メモ、過去3か月の給与明細を読み、手当と割増のルールを一覧表にしてください。
列:区分/現場/条件/金額・計算方法/根拠の書類名
ルール
・書類どうしで内容が食い違うもの、根拠が見つからないものは【要確認】と書いてください
・推測で金額を補わないでください
② 毎月、勤務データをそろえるとき
添付の勤務表(紙の写真、Excel、報告メッセージ)を、次の列の表にしてください。
列:社員番号/日付/現場/開始時刻/終了時刻/休憩時間/勤務区分(日勤・夜勤・宿直)
ルール
・読み取れない文字や、休憩が書かれていない日は【要確認】としてください
・氏名ではなく社員番号で整理してください
③ 毎月、計算結果をチェックするとき
添付の「今月の計算結果」と「先月の計算結果」を比べて、次に当てはまる人を一覧にしてください。
・支給額が先月から20%以上増えた、または減った人
・時給換算で最低賃金を下回っている可能性がある人
・手当マスタにない現場で勤務している人
それぞれ、考えられる理由も1行で書いてください。
どれくらい時間が減ったか
事務員2名、従業員約150名の給与計算で試算すると、次のように変わります。
人件費込みの時給2,500円で換算すると、月約28万円、年約336万円分の時間です。最初の手当マスタづくりには、別に2〜3週間ほどかかります。時間は当社の試算で、従業員数や勤務表の形式によって変わります。
時間だけでなく、「なぜこの金額になったのか」を手当マスタで説明できるようになったことも大きな変化です。社員からの問い合わせにもすぐ答えられ、担当者が休んでも、もう1人が同じように計算できるようになりました。
注意点と、人が判断すべきこと
給与の金額の計算を、AIの回答のまま使う
計算はExcelや給与ソフトの式で行い、AIは整理とチェックに使う
仮眠時間や変形労働時間制の扱いを、AIの判断で決める
労働時間の扱いは、社会保険労務士と決めたルールを手当マスタに書いておく
氏名やマイナンバー、口座番号までAIに入れる
法人向けプランを使い、社員番号で整理。不要な個人情報は入れない
一度作った手当マスタを放置する
法改正や最低賃金の改定、新しい現場の契約のたびに更新する担当を決める
割増賃金の率や最低賃金は、法改正や地域によって変わります。本記事は一般的な考え方を紹介するものです。実際の運用は、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
よくある質問
AIが給与の金額を間違えることはありませんか?
金額の計算そのものはAIにさせず、手当マスタを参照するExcelや給与ソフトの計算式で行います。AIは勤務データの整理や、前月との比較などのチェックを担当するため、計算結果は毎回同じになります。
今の給与ソフトは変える必要がありますか?
変える必要はありません。計算結果をCSVなどで給与ソフトに取り込める形にすれば、今の給与ソフトのまま使えます。
社員の個人情報をAIに渡しても大丈夫ですか?
入力内容がAIの学習に使われない法人向けプランを使い、氏名ではなく社員番号で整理します。マイナンバーや口座番号など、計算に不要な情報は入れない社内ルールを決めて使うことをおすすめします。
※本記事の会社名・数値は、導入の流れを説明するためのモデルケースです。
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