モデルケース2026年10月27日

AIを入れたら、逆に忙しくなった?確認と手直しに追われる原因と、仕事の任せ方の見直し方

AIで作った資料の山に追われる状態から、仕事を整理して余裕をもって働く状態へ変わる様子のイラスト

「AIを入れたのに、前より忙しくなった」――AIを使い始めた会社から、よく聞く声です。文章はすぐできるのに、確認と手直しに追われる。浮いたはずの時間が、いつの間にか別の雑務で埋まっている。この記事では、AIを入れた直後にかえって忙しくなった会社が、仕事の「任せ方」を見直して事務の時間を減らしたモデルケースを紹介します。忙しくなる原因と、見直しの手順、そのまま使えるAIへの頼み方までまとめました。

会社
T設備工業/地方都市の設備工事会社(空調・給排水・電気)
規模
従業員35名、工務・事務8名
困りごと
生成AIを全員に配ったが、報告書や見積説明の確認・手直しが増え、事務の時間は月約80時間から約95時間に増えてしまった
対象の業務
工事報告書、見積の説明文、お客様へのメール、社内の週報

困っていたこと

  • AIの文章の確認に追われる
  • 長い資料が増えて読む時間も増えた
  • 浮いた時間がどこかへ消える

やったこと

  • やめる仕事を先に決めた
  • 材料・仕上がり・検査を決めた
  • 分からない所は「不明」と書かせた

変わったこと

  • 事務の時間が月約45時間に
  • 確認は印の付いた所だけ
  • 浮いた時間を現場の段取りへ

AIでかえって忙しくなる、よくある原因

T設備工業では、社長の号令で全員にAIのアカウントを配りました。最初の1か月は「報告書があっという間にできる」と好評でしたが、2か月目から様子が変わります。工務課長の机には、AIで作った長い報告書と見積の説明文が次々に届き、確認と手直しに追われるようになりました。

確認と手直しが増えたAIの文章はもっともらしいが、数字や工事名がまちがっていることがある。全文を読み直すしかない
資料が長くなったAIは何でも丁寧に書くので、1枚で済んだ報告が3枚になり、読む側の時間が増えた
浮いた時間が消える早くできた分、別の雑務や「ついでの資料」が増えて、楽になった実感がない

原因は、AIの性能ではありませんでした。AIに渡す材料も、仕上がりの形も、確かめ方も決めないまま、今の書類をそのままAIで作らせたことです。誰も読まない書類までAIで量産すれば、それを読む人と確かめる人の手間が増えます。確かめ方がなければ、結局は1行目から全部、人が目を通すはめになります。

ここがポイント

AIを入れて忙しくなるのは、「使い方が下手」だからではありません。仕事の範囲と確認のしかたを決めていないことが、いちばん多い原因です。AIを使う前に、仕事の流れを少しだけ設計し直すと、確認の手間は大きく減ります。

見直しの手順(5ステップ)

T設備工業は、当社と一緒に、事務の仕事を1つずつ見直しました。やったことは、次の5つです。

  1. やめる仕事を決める読まれていない書類
  2. 材料と仕上がりを決める検査のしかたも
  3. 前提メモを作る会社の事情をまとめる
  4. 確認は印の所だけ「不明」「要確認」
  5. 浮いた時間を決める使い道を先に
AIで作った長い資料の山を前に、確認と手直しに追われて疲れている社員のイラスト
見直す前AIの長い文章を全部読み直し、手直しに追われる。
AIが作った短い下書きの、印が付いた所だけを確認して、余裕をもって仕事をしている社員のイラスト
見直した後仕上がりと検査のしかたを決め、確認は印の付いた所だけ。

1. やめる仕事を先に決める:AIに任せる前に、「この書類は誰が読んでいるか」を確かめました。すると、毎週作っていた週報のうち、社長以外ほとんど読んでいないものが見つかりました。週報は廃止し、月1回の打合せで口頭で共有することにしました。

2. 材料と仕上がりを決める:工事報告書なら「A4・1枚」「作業内容・使った材料・次回の予定の3項目」「数字は日報からそのまま写す」と、AIに渡す材料と、できあがりの形を決めました。

3. 前提メモを作る:会社の取引先、よく使う工事の名前、書き方のルールを1つのメモにまとめ、AIに最初に読ませるようにしました。毎回「うちの会社は……」と説明し直す手間がなくなりました。

4. 確認は印の所だけ:AIには「分からないこと・推測したことは書かずに【不明】【要確認】と印を付ける」よう指示しました。確認する人は、印の付いた所と数字だけを見ればよくなりました。5. 浮いた時間の使い道を決める:減った時間は「現場の段取りと、お客様への連絡に使う」と先に決め、新しい雑務を増やさないようにしました。

AIに任せる前に決める「材料・仕上がり・検査・判断」

工事に図面と仕様書があるように、AIに任せる仕事にも「決めごと」が要ります。T設備工業では、現場の言葉に置きかえて、次の4つを書類ごとに決めました。頼み方の言い回しを工夫するより、こちらのほうが下書きの品質は安定します。

決めること工事報告書の例決めないと起きること
材料(AIに渡すもの)作業日報、写真のメモ、使った材料の一覧AIが足りない情報を想像で埋めてしまう
仕上がり(できあがりの形)A4・1枚、3項目、です・ます調長い文章になり、読む側の時間が増える
検査(確かめ方)数字は日報と照合、【不明】【要確認】の所を見るどこを見ればよいか分からず、全文を読み直す
判断(人が決めること)お客様への提出の判断、金額、次回の日程AIの文章がそのまま外に出てしまう
仕事を「やめる仕事」「AIに任せる下書き」「人が確認して決めること」の3つに分けて整理している図
やめる仕事・AIに任せる下書き・人が決めることに分けて整理する

失敗例今の仕事を、そのままAIで速くしようとする

避け方まず「この書類は誰が読んでいるか」を確かめ、いらない仕事をやめる

失敗例AIの文章を全部読み直して確認する

避け方「不明」「要確認」の印と数字だけを確認する決まりにする

失敗例早くできた分、資料や会議を増やす

避け方浮いた時間の使い道を、先に決めておく

AIへの頼み方の例

工事報告書の下書きは、次のように頼みます。最初に前提メモを貼り、仕上がりの形と検査のしかたをはっきり書くのがコツです。

AIへの頼み方(例) あなたは設備工事会社の事務担当です。最初に会社の前提メモを読んでください。 【前提メモ】(取引先・工事の呼び方・書き方のルールを貼る) 次の作業日報から、お客様に出す工事報告書の下書きを作ってください。 条件 ・A4で1枚に収まる長さ。です・ます調 ・項目は「作業内容」「使った材料」「次回の予定」の3つだけ ・数字(数量・日付・時間)は日報にあるものをそのまま使い、計算や推測をしない ・日報に書いていないこと、推測したことは書かずに【不明】【要確認】と印を付ける ・最後に、確認が必要な箇所を箇条書きで一覧にする 【作業日報】(ここに貼る)

「この仕事、やめられないか」をAIに相談するのも効果的です。仕事を減らす視点は、自分たちだけではなかなか出てきません。

AIへの頼み方(やめる仕事を探す) 社内で毎週作っている書類の一覧です(書類名・作る人・かかる時間・読む人)。 1. 読む人が少ない、またはほかの書類と内容が重なっているものを挙げてください 2. やめる・回数を減らす・まとめる、のどれがよいか、理由と一緒に提案してください 3. やめる場合に、困る人がいないか確認するための質問を作ってください (ここに一覧を貼る)

どれくらい時間が減ったか

見直しの前後で、工務・事務8名の事務作業の時間(報告書・見積の説明・メール・週報)を比べました。AIを配った直後は、確認と手直しが増えて、かえって時間が増えていました。

時期事務作業の時間(月)主な内容
AIを使う前約80時間手書き・Excelで報告書と週報を作成
AIを配った直後約95時間下書きは速いが、確認と手直し、長い資料を読む時間が増えた
仕事の任せ方を見直した後約45時間週報を廃止。報告書は1枚・3項目、確認は印の所だけ

減った時間は、決めておいたとおり、現場の段取りとお客様への連絡に使っています。工務課長は「AIの文章を読む仕事から、AIに渡す材料をそろえる仕事に変わった」と話しています。

注意点と、続けるコツ

最初から全部の仕事でやらない:まずは、毎週・毎月くり返す仕事を1つだけ選び、材料・仕上がり・検査を決めて試します。うまくいった形を、ほかの仕事に広げていきます。

確認を他人に回さない:「AIでまとめたので、まちがいがないか見てください」と、確認を受け取る側に回すと、上司やお客様の負担が増えます。AIを使った人が、印の所と数字を確認してから出す決まりにしましょう。根拠になった日報の文言を一緒に抜き出させると、確認が早くなります。

前提メモを育てる:AIの下書きを直したら、その直し方を前提メモに書き足します。同じ直しを何度もしなくて済むようになり、使うほど手直しが減っていきます。

よくある質問

AIの文章のまちがいは、どうやって見つければよいですか?

全文を読み直すのではなく、AIに「分からないことや推測したことには【不明】【要確認】の印を付ける」「数字は元の資料からそのまま使う」と指示し、印の所と数字を元の資料と照らし合わせるのが効率的です。根拠になった元の文言も一緒に抜き出させると、確認がさらに早くなります。

毎回、AIに会社のことを説明するのが面倒です。

取引先、よく使う言葉、書き方のルールなどを「前提メモ」として1つのファイルにまとめ、最初に読ませるのがおすすめです。AIのサービスによっては、プロジェクトやカスタム指示の機能で、毎回自動で読ませることもできます。

どの仕事からAIに任せればよいですか?

毎週・毎月くり返していて、形が決まっている書類から始めるのがおすすめです。その前に「その書類は誰が読んでいるか」を確かめ、やめられる仕事はやめてから、AIに任せましょう。

※本記事の会社名・数値は、導入の流れを説明するためのモデルケースです。

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