モデルケース2026年10月28日
入札結果をAIで読んで、取りに行く案件を選ぶ。清掃・設備管理の業務委託で、「取れるか」と「取って良いか」を見る
入札の公告を読んで、資格と期日を確かめるところまでは、AIでずいぶん楽になりました。次に担当者が悩むのは、「この案件、本当に取りに行くべきか」という判断です。清掃や設備管理の業務委託(役務)の入札は、案件の数が多く、すべてに力をかけることはできません。この記事では、発注機関が公表している過去の入札結果をAIで同じ形の表に整理し、参加する案件の優先順位を付ける方法を、ビルメンテナンス会社のモデルケースで紹介します。入札の金額をAIに決めさせるのではなく、判断の材料をそろえる使い方です。
- 会社
- B総合管理/地方都市のビルメンテナンス会社(清掃・設備管理・警備)
- 規模
- 従業員120名、入札担当3名
- 困りごと
- 入札期に約150件の公告を確認しても、どれに力を入れるかは担当者の勘と記憶頼み。取れても人が回らない現場や、利益の出ない案件を取ってしまうこともあった
- 対象の業務
- 過去の入札結果の整理、参加する案件の優先順位づけ、入札後の振り返り
困っていたこと
- どれに力を入れるか勘頼み
- 取れても人が回らない現場
- 負けた理由が分からない
やったこと
- 過去3年の入札結果を表にした
- AIに傾向と優先度を整理させた
- 採算と人の配置も一緒に見た
変わったこと
- 参加する案件を絞れた
- 準備の時間を有望な案件へ
- 入札後の振り返りが残るように
「全部に参加」が、いちばん効率が悪い
B総合管理では、これまで資格に合う案件にはできるだけ参加する方針でした。ところが、1件ごとに仕様書を読み、現場を見て、積算して、書類をそろえる手間は小さくありません。入札期の担当者3名は、どの案件にも同じだけの時間をかけ、結果として、本当に取りたい案件の準備が手薄になっていました。
勘と記憶で決める「この発注機関は毎年あの会社が取る」といった話が、ベテランの頭の中にしかない
取っても人が回らない落札できても、遠い現場や早朝の作業で、人の配置が組めないことがある
負けた理由が残らない開札後に結果を見ても、記録が残らず、次の入札に生かせない
必要だったのは、勘を捨てることではなく、勘の裏付けになる材料を、毎年同じ形でそろえることでした。
入札結果は、公開されている材料
国や自治体の多くは、入札の結果をホームページや入札情報のサービスで公表しています。公表される項目は発注機関によって違いますが、たとえば次のような情報が手に入ります。
これらは、誰でも見られる公開情報です。ただ、発注機関ごとに載っている場所も形式もばらばらで、3年分を集めて並べるのは手作業では大変でした。集めた結果を同じ形の表にそろえ、傾向を読み取るところに、AIの力を借ります。
ここがポイント
使うのは、あくまで発注機関が公表している情報と、自社の記録です。他社と金額や参加の有無について連絡を取り合うことは、独占禁止法などで禁じられている行為にあたるおそれがあります。分析はすべて社内で完結させてください。
AIを使った分析の流れ(5ステップ)
結果を集める過去3年分
表にそろえるAIで同じ形に
傾向を読む分野・時期・参加社数
採算と人を見る自社の条件と照合
優先度を決める最後は人が判断
これまで資格に合う案件には全部参加。どれも同じだけ手間をかけていた。
AI導入後結果の傾向と採算を見て、力を入れる案件を選べるように。
1. 結果を集める:よく参加する発注機関について、過去3年分の入札結果を集めます。公表ページを印刷したPDFや、表計算ソフトで配られている一覧を、発注機関ごとのフォルダに入れておきます。自社が参加した案件は、自社の入札金額と、参加しなかった理由も一緒にメモしておきます。
2. 表にそろえる:形式のばらばらな結果を、AIに同じ列の表にそろえてもらいます。列は「年度・発注機関・案件名・業務の種類・開札日・予定価格・落札金額・落札率・入札した会社の数・落札した会社・自社の参加と金額」です。読み取れない所は推測させず、空欄のままにさせます。
3. 傾向を読む:そろえた表をAIに渡し、業務の種類ごと・発注機関ごとの傾向を整理させます。4. 採算と人を見る:次に、自社の拠点からの距離、作業の時間帯、必要な資格者の人数など、取ったあとに人が回るかどうかの条件と照らし合わせます。5. 優先度を決める:AIの整理をもとに、担当者と経営者で、力を入れる案件を決めます。
AIがそろえた表の例
AIの出力(例・架空の値)
年度|発注機関|案件名|種類|入札社数|落札率|落札者|自社
R6|〇〇市|市民会館 清掃|清掃|6社|88.2%|C社|参加・3位
R7|〇〇市|市民会館 清掃|清掃|7社|86.9%|C社|参加・2位
R8|〇〇市|市民会館 清掃|清掃|5社|89.5%|当社|落札
R8|△△県|合同庁舎 設備管理|設備|2社|97.1%|D社|不参加(資格者不足)
※予定価格が非公表の案件は、落札率を空欄にしています
並べてみると、「清掃は参加する会社が多く、価格も厳しい」「設備管理は参加する会社が少ないが、必要な資格者の条件が重い」といった違いが、数字で見えてきます。ベテランの「なんとなく」が、表で裏付けられる感覚です。
AIへの頼み方の例
AIへの頼み方(例)
添付したのは、当社がよく参加する発注機関の、過去3年分の入札結果です(PDFと表計算ファイル)。
次の列の表に、1案件1行でそろえてください。
年度/発注機関/案件名/業務の種類(清掃・設備管理・警備・その他)/開札日/予定価格/落札金額/落札率/入札した会社の数/落札した会社/当社の参加と順位
・資料に書いていない項目は空欄にし、推測で埋めないでください
・金額は資料の表記のまま、税込か税抜かも書いてください
・最後に、読み取れなかった資料と、その理由を一覧にしてください
表ができたら、続けて傾向を整理させます。
AIへの頼み方(傾向を整理する)
この表をもとに、次の点を整理してください。
1. 業務の種類ごとの、入札した会社の数と落札率のおおまかな傾向
2. 同じ会社が3年続けて落札している案件の一覧
3. 入札した会社が3社以下だった案件の一覧
4. 当社が参加して2位以内だった案件と、その差の大きさ
数字は表から計算できる範囲だけにし、表から言えないことは「この表からは分からない」と書いてください。入札する金額の提案はしないでください。
優先度は「取れるか」と「取って良いか」で決める
入札結果の分析というと、「どの案件なら勝てるか」に目が行きがちです。でも、ビルメンテナンスの業務委託は、取ってからが本番です。1年、場合によっては数年にわたって、毎日人を配置し続けなければなりません。B総合管理では、優先度を「取れるか」と「取って良いか」の2つの軸で決めることにしました。
「取れるか」と「取って良いか」の2つの軸で案件を分ける
2つの軸で並べると、案件はおおまかに4つに分かれます。両方が高い案件には、現場の下見や積算にしっかり時間をかけます。取れそうでも人が回らない案件は、無理に取りに行かず、次の年度に向けて人の準備から始めます。どちらも低い案件は、思い切って見送ります。
AIへの頼み方(取って良いかを見る)
当社の条件は次のとおりです。
・拠点:〇〇市(車で1時間以内なら日常の巡回が可能)
・早朝(6時前)の作業に回せる人員:清掃3名まで
・設備管理の有資格者:電気主任技術者1名、ボイラー技士2名
さきほどの表の、来年度に再び入札が見込まれる案件について、この条件で「人が回るか」を〇・△・×で分けてください。判断の理由も一言ずつ付けてください。分からない所は「要確認」としてください。
「見送る」と決めることも、大事な判断
B総合管理で、この分析を始めていちばん変わったのは、見送る案件を、理由を持って決められるようになったことでした。これまでは「資格に合うのに参加しないのはもったいない」という空気があり、なかなか見送れませんでした。今は、表を見ながら「この案件は人が回らないので今年は見送り、来年に向けて資格者を育てる」と、次の手と一緒に決められます。
注意点と、やってはいけないこと
AIに「いくらで入れれば勝てるか」を決めさせる
金額は、自社の原価と方針から人が決める。AIは過去の傾向を整理するだけ
他社に連絡して、参加の有無や金額を確かめる
分析は公表情報と自社の記録だけで行い、社内で完結させる
一度作った表を、そのまま何年も使う
開札のたびに結果を1行足し、毎年の入札期前に見直す
入札の結果は、発注機関の方針や制度の変更、物価や人件費の上がり方によって変わります。過去の傾向は、あくまで判断の材料の一つです。また、公表される項目は発注機関によって違うので、表の空欄が多い発注機関は、無理に比べずに別に扱います。
入札後の振り返りを、1行で残す
いちばん効くのは、開札のたびに結果を表に1行足し、「なぜ取れたか・なぜ負けたか」を一言残すことです。「価格で負けた(差は小さい)」「資格者の条件で参加できなかった」。この一言がたまると、翌年の判断がぐっと早くなります。AIに「今年の振り返りを3行でまとめて」と頼めば、入札期の終わりに1年分を見直すこともできます。
- よく参加する発注機関の、過去3年分の入札結果を集めた
- 結果をAIで同じ列の表にそろえた(推測で埋めない)
- 業務の種類ごとの、参加社数と落札率の傾向を見た
- 自社の距離・時間帯・資格者・人員の条件を書き出した
- 「取れるか」と「取って良いか」の2つの軸で優先度を決めた
- 見送る案件にも理由と次の手を書いた
- 開札のたびに結果と振り返りを1行足すことにした
この記事は、公表されている入札結果を社内で整理するための一般的な考え方をまとめたものです。入札の金額や参加の判断は、各社の責任で行ってください。入札に関する法令や発注機関のルールに不安がある場合は、専門家にご相談ください。
よくある質問
入札結果は、どこで手に入りますか?
多くの発注機関は、ホームページや電子入札・入札情報のサービスで結果を公表しています。公表の期間や項目は発注機関ごとに違うので、よく参加する発注機関から順に、公表場所を確かめておくのがおすすめです。
予定価格が公表されていない案件は、どう扱えばよいですか?
落札率は計算できないので、入札した会社の数や落札した会社の顔ぶれ、自社の順位など、分かる項目だけで比べます。AIには空欄を推測で埋めさせないことが大切です。
AIに入札の金額を提案させてもよいですか?
おすすめしません。金額は、自社の原価、人員の配置、会社の方針をもとに、責任者が決めるものです。AIには過去の傾向の整理や、積算の材料集めを任せ、判断は人が行いましょう。
何年分の結果があれば役に立ちますか?
業務委託は毎年や数年ごとに同じ案件が出ることが多いので、3年分あると傾向が見えやすくなります。まずは1年分から始め、開札のたびに1行ずつ足していくだけでも十分です。
分析に使う情報を、AIに入れても大丈夫ですか?
公表されている入札結果は公開情報です。自社の入札金額や原価、人員の情報は、入力が学習に使われない法人向けプランで扱い、社内のルールで入力してよい範囲を決めておきましょう。
※本記事の会社名・数値は、導入の流れを説明するためのモデルケースです。
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